K君の思い出

 小学生のK君は、姉と妹にはさまれた、ゲームとお笑いが大好きな心やさしい少年でした。
 彼が生まれて数か月後からずっと、両親は彼の将来と真剣に向き合ってこられました。
 医師から「普通の成長」はおそらく無理であろうという宣告を受けながら、「普通に育てたい」と希望され、姉妹と同じ学校に通わせるべく、本当に大変な努力をされて、それを実現されたそうです。
 そんなご両親の努力の甲斐もあって、周囲の理解を得られたK君は、普通の学校生活を送ってこられました。たくさんの学校行事に参加され、その姿を見守るため、ご両親も学校へ通われました。
 また学校で何かあったらすぐ駆けつけられるようにと、学校の前にあるマンションにお住まいも移されました。
 おかげでK君の家には友達がいっぱい遊びに来てくれて、学校で一番の有名人になってしまったそうです。
 
 お別れは突然でした。なんでもない風邪のはずでした。
 ゆっくりと体を休めて熱が下がればきっと元気になる。そう信じて看病されていたおばあさんの落胆ぶりは本当にお気の毒でした。
 けれどもご両親は普段と同じように仕事の段取りを済ませ、家事をこなし、横たわるK君に変わりなく声をかけ、傍目には淡々と葬儀の準備を進めていかれました。
 泣き崩れる前にできることをしよう、しなければならないことがあるはず・・・そんなご両親の意思が、その姿から伝わってきました。
 
「覚悟はしていました」
 お父さんはそう挨拶されました。続いてお母さんも、
「校長先生をはじめ先生方、PTAのみな様、何よりクラスのお友達に感謝しています」
 と声を詰まらせながら、感謝の言葉を述べられました。
 どこからも泣き声は聞こえません。
 K君は、その短い人生を、まるで駆け抜けるように旅立ちました。
 それは死への旅立ちというより、ちょっと先に行っているからね、そんなさわやかな葬儀でした。
「ありがとう」と手を振るK君に、みんなで「ありがとう、またね」と応えるーーーそんな子供たちの様子に深々と頭を垂れ、感謝されるご遺族の姿に心打たれた一日でした。
 
49歳 女性 M・M (メモリアルスタッフが見た、感動の実話集『最期のセレモニー』)

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