大学ノート

 梅雨明けの暑苦しいある日、一人の男性が会館に見えました。
 野球帽にサングラス、白のポロシャツにジーンズ姿、足元は雪駄、すらっとした細身の体型で、脇には黒革のポーチ、手にはビニール袋をお持ちです。
 年齢は四十歳前後、葬儀場では場違いなその姿と強面の表情に戸惑いを感じながら用件をうかがうと、葬儀のことで聞きたいことがあるということでした。
 ご両親のどちらかがご病気で、それで問い合わせに来られたのかなと思い、応接室で話を始めることにしました。
「何か。宗派はございますか」と私が話を始めると、「ちょっと待ってください。今、メモを取り出すから」というと、いかにもついさっき買った感じの、コンビニの袋から大学ノートを取り出されました。
 話し始めると、外見から受けた印象とは違い、真剣に私の話を聞かれ、その大学ノートに細かくメモをとられる姿がとても印象的でした。
 男性は口数が少なくほとんど質問もありません。私もご理解いただけたか心配で何度も問いかけをすると、ご本人は「わかりました」と何度もうなずかれていました。
 約一時間、話をさせていただき、その場は帰られました。

 それからしばらく経ったある日、夜間に一件の葬儀依頼がありました。
 すでに会館に入られているということでした。ご遺族にごあいさつにうかがうと、奥様と息子さんがいらっしゃいました。ご主人が病気で亡くなられたということでした。
 奥様の手には、大学ノートが握られていました。そのノートを見たとき、私ははっと気付きました。
 あのときの大学ノート。

 奥様によると、ご主人は末期ガンの宣告を受けており、奥様や息子さんには内緒で一人会館まで出向いて話を聞かれたということでした。
 自分が亡くなったときには、どのような葬儀をすればよいかを細かに記録したエンディングノートを自ら作成され、遺族に残しておられたのです。
 打合せの際、私どもの問い合わせに、奥様が大学ノートを見ながら答えられるのを拝見して、ご主人の深い愛を感じました。

 通夜・葬儀には会社関係をはじめ、同僚の方々、友人の方々が多数参列され、盛大な葬儀となりました。

 出棺の際、奥様は大学ノートを静かに棺に入れ、手を合わせておられました。
 生前のご主人にお会いしたのは本当にわずかな時間でしたが、ノートを用意された故人の人柄と深い愛に、忘れられないお別れになりました。

40歳 男性 M・A (メモリアルスタッフが見た、感動の実話集『最期のセレモニー』)

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