サンレー紫雲閣

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「私は、あと半年の命です」

「私は、あと半年の命です」

 お客様から葬儀の生前見積りをしたいというお電話をいただき、ご自宅にうかがいました。
 当時は、生前見積りをされる方が少なく、「死ぬ前に葬儀の話なんか・・・」と言われる方が大半でした。
 
 お客様は五十代のご夫婦で、祭壇、棺と順を追って打合せをさせていただきました。
 葬儀の話も終わり、納骨の時に選ぶ骨壺の説明をしているときでした。

 奥様が、急に泣き始めたのです。
 突然の出来事に戸惑い、「もちろん、今決められなくてもかまいません。また改めてうかがいます」と帰ろうとする私に、ご主人が言われました。
 「打合せを続けてください。・・・どんな骨壺がいいかな。俺がこれから入るやつを、お前も一緒に選んでくれよ。俺の洋服だって、お前がみんな選んでくれたじゃないか」
 ご主人が奥様に声をかけます。奥様はハンカチで目を覆ったままです。
 「仕方がないな。自分で決めるか」
 そういうとご主人は、白地のシンプルなものを選ばれました。
 「私は、あと半年の命なんです。私のことより、遺されたこいつの事が心配で、全部決めておきたくて・・・」
 私は、ご主人の言葉になんと答えていいのか、生前見積りとは、こういうこともあるんだなということを初めて知りました。
 「もう泣くな。俺までつらくなるじゃないか。・・・次は何を決めればいいんですか」
 それからは、三人で泣きながらの打合せをさせていただきました。
 帰り際、玄関先で「もしものときは必ず来てくださいよ。そうだ、この写真、遺影に使ってください」と言われ、写真を預かりました。
 そのときは正直、生前を存じ上げている方ということもあり、葬儀を担当したくないという気持ちでした。

 半年後、亡くなったご主人と再会することになりました。
 あのとき預かった写真を遺影として飾りました。
 ご主人には大変ご親族が多く、その方々が葬儀のやり方でいろいろと奥様にアドバイスをされていました。
 奥様はそのつど、「ありがとうございます。でも、主人が自分で決めたことなので、そのとおりさせてあげたいのです」と生前見積りで決めたご主人の希望通りの葬儀が執り行われました。
 
 葬儀後、何度も奥様より電話があり、「あの葬儀でよかったのでしょうか」と私に聞かれました。
 「良い葬儀でしたよ。きっと、ご主人は大変喜んでおられますよ」
 奥様は、そんな私の言葉にホッとされたご様子でした。
 
 今でも自分の死を見つめ、なおかつ奥様のことを思いやっていたあのご自宅でのご主人の、男らしく堂々としていた姿を忘れることはできません。


40歳 男性 Y・T (メモリアルスタッフが見た、感動の実話集『最期のセレモニー』)