グリーフケアをご存知ですか?

グリーフケアとは「悲嘆に寄り添うこと」。現代に生きる人々においても、
グリーフケアの重要性は高まってゆく一方です。
葬祭スタッフがグリーフケアを実践する動きが始まっています。
その現場をレポートしました。

悲嘆とはなにか
愛する人を亡くした人には、さまざまな困難が襲いかかってきます。妻を亡くした夫が会社に復帰できない、お子さんを亡くした母親が心の病にかかってしまうなど、深刻なものも多くあります。しかも時を選ばずして起こります。
さらに困ったことには、きっかけさえあれば、何年か後に再発することもあります。
グリーフ(悲嘆)がかかえる根の深さを感じますが、自力で乗り越えなければなりません。決して容易なことではないのです。
そうした遺族を心理的、社会的に孤立しないように支援する活動がグリーフケアです。まず大切なのは、悲しみへの対応です。
悲しみの対応とは、遺族に代表される生者のためのものです。残された人々の深い悲しみや哀惜の念を、どのように癒していくかという対応法のことです。
こうしたグリーフへのケアの場があると、早期に自分の混乱を整理でき、亡くなった方の生きた意味・自分の生きる意味、人生の意義などに気づくことができます。それが前向きに人生を捉えなおすきっかけとなるでしょう。今、そうした活動が注目されています。

愛する人を亡くすということ
愛する人を亡くしたとき、世界にぽっかり穴が開いたような状態になるといいます。
伴侶を亡くしたご主人が、何もできなくなり、果てはうつになってしまうことも。とくに天災で愛する人を亡くされた場合には、心の準備はないに等しい状態です。
愛する人を亡くした人の心は不安定に揺れ動いています。しかし、そこに儀式というしっかりした「かたち」を押し当てられると、不安が癒されていきます。
通夜、告別式、その後の法要などの一連の行事が、遺族に「あきらめ」と「決別」をもたらしてくれます。
親しい人間が死去する。その人が消えていくことによる、これからの不安。残された人はこのような不安を抱えて数日間を過ごさなければなりません。

葬儀の役割
心が動揺していて矛盾を抱えているとき、この心に儀式のようなきちんとまとまった「かたち」を与えないと、人間の心にはいつまでたっても不安や執着が残るのです。この不安や執着は、残された人の精神を壊しかねない、非常に危険な力を持っています。この危険な時期を乗り越えるためには、動揺して不安を抱え込んでいる心に、ひとつの「かたち」を与えることが求められます。まさに、葬儀を行う最大の意味はここにあります。
では、この儀式という「かたち」はどのようにできているのでしょうか。それは、「ドラマ」や「演劇」にとても似ています。死別によって動揺している人間の心を安定させるためには、死者がこの世から離れていくことをくっきりとしたドラマにして見せることによって「かたち」が与えられ、心はその「かたち」に収まっていきます。すると、どんな悲しいことでも乗り越えていけるのです。

震災がきっかけに
グリーフケアとは日本では「悲嘆に寄り添うこと」と訳されていますが、広く「心のケア」に位置づけられます。
「心のケア」という言葉が一般的に使われるようになったのは、阪神・淡路大震災以降だそうです。
被災した方々、大切な人を亡くした人々の精神的なダメージが大きな社会問題となり、その苦しみをケアすることの大切さが訴えられました。葬祭業界においても、グリーフケアの重要性は高まってゆく一方です。葬祭スタッフがグリーフケアを実践することによって、日本人の自殺者やうつ病患者の数を減らせるとさえ考えられています。

悲嘆の反応
では、実際どんな反応が起こるのでしょうか。
◆心(精神)的な反応
孤独、寂しさ、やるせなさ、罪悪感、自責感、無力感などが症状として表れます。感情の麻痺、怒り、恐怖に似た不安を感じることもあるといいます。
◆身体的な反応
睡眠障害、食欲障害、体力の低下、健康感の低下、疲労感、頭痛、肩こり、めまい、動悸、胃腸不調、便秘、下痢、血圧の上昇、白髪の急増などから、自律神経失調症、体重減少、免疫機能低下などの身体の違和感、疲労感や不調を覚えることもあります。
◆日常生活や行動の変化
ぼんやりする、涙があふれてくる、多くの「なぜ」「どうしよう」の答えを求められ、死別をきっかけとした反応性の「うつ」により引きこもる、落ち着きがなくなる、より動き回って仕事をしようとする、故人の所有物、ゆかりのものは一時回避したい思いにとらわれることもあれば、逆に時が経つにつれ、いとおしむようになるなども起こります。

悲嘆のプロセス
愛する人を亡くすか、あるいは、それを予期しなければならない立場に立たされた人は、必ずといっていいほど、「悲嘆のプロセス」と呼ばれる一連の心の働きを経験します。
愛する人の死を予期したときから、「準備的悲嘆」と呼ばれる一連の悲しみを経験します。
そして、実際に死別に直面したのち、悲嘆の淵にある人はいくつかの段階を経て、その衝撃から立ち直ってゆくのです。
愛する人を亡くしたとき、どういう状態に陥ることが多いのか、どんな段階を経て立ち直ってゆくのか、悲嘆のプロセスを十分に消化できなかった場合はどんな状態に陥る危険性があるのかなど、人間として誰もが味わう死別の悲しみについて学ぶのがグリーフ・エデュケーション(悲嘆教育)です。
そうした悲嘆のプロセスを克服していく方法について書かれているのが、『愛する人を亡くした人へ』一条真也 著(現代書林)です。手紙形式に書かれたその内容は多くの方々の共感を得ています。

グリーフケア研究所が上智大学に開所
グリーフケアについて総合的に研究するグリーフケア研究所は、グリーフケアの必要性の高まりを受けて、日本で初めてグリーフケアを専門とした教育研究機関として、2009年4月に設立されました。
2005年4月25日にJR西日本の福知山線で発生した列車脱線事故の教訓を生かし、社会に役立つ取り組みの一環として、事故のご遺族の方々をはじめとした悲嘆者に対するグリーフケアを実践することを目的に、JR西日本及び公益財団法人JR西日本あんしん社会財団の全面的な支援により始まりました。グリーフケアの実践を遂行できる専門的な知識・援助技術を備えた人材の育成などが主な目的です。
2010年4月、グリーフケア研究所は上智大学に移管され、上智大学大阪サテライトキャンパス(大阪市北区)と東京の四谷キャンパスの2か所で活動しています。上智大学グリーフケア研究所は、グリーフケアや死生学に関する研究、研究会の開催、諸文献の収集及び紀要、著作などの刊行を行うとともに、「グリーフケア人材養成講座」を開催しています。