お茶という文化の楽しみ

 

お茶という文化の楽しみ

小笠原家茶道古流総師範である佐久間進会長にお茶の魅力と老後の楽しみ方を聞いた。
一服のお茶がもつ豊かな世界をぜひご堪能ください。

茶道の原点
〈古流〉について

――「小笠原家茶道古流」の総師範をされておられますが、古流について教えていただけますか?
佐久間 茶道といえば、千利休から始まる表千家、裏千家、武者小路千家が流派として有名ですが、利休以前の茶湯の開祖と称される村田珠光(むらたじゅこう)の流れをくみ、小倉藩小笠原家に続く古市流の茶道があります。これが「小笠原家茶道古流」と呼ばれる系譜です。
珠光は南北朝から室町の中期にわたり行われた「闘茶」や能阿弥が制定した上流武士を中心とした茶湯を、広く一般の物にしたといわれています。珠光が目指した茶は、のちに千利休で広く知れわたることになる「わび」「さび」の世界です。
「わら屋に名馬つなぎたるがよし」―ただ豪勢に飾り立てるのではなく、侘びたわら屋と立派な馬という、まさに対象美をよしとしました。そうすることで一般の人たちと上流武士の世界の楽しみを結び付けたわけです。
――そうした考えが、庶民へと広がっていったわけですね。
佐久間 そうです。当初、珠光の弟子は、大名や有力武士たちでしたが、その中から古市澄胤(ちょういん)に神髄を託しました。
澄胤は、開祖・珠光の教えを広め、一五〇八(永正五)年、五六歳で戦死します。当時は戦乱の世でした。
その後、珠光の茶の教えは、町人の都市として栄えていた堺の地で千利休の登場により開花し、全国へ広がっていくことになります。
一方、小笠原家茶道古流は、四代家元・古市了和(りょうわ)より、小倉藩主小笠原家に仕え、後世「小笠原家茶道古流」と称されるようになります。
江戸末期には古流の中興の祖と呼ばれる十一代・古市自得斎が登場するなど、隆盛を極めます。ただ、明治維新になると武家の流派だった小笠原家茶道古流は下火になり、小倉地方に温存される形になりました。
――歴史的な位置づけがよくわかりました。
佐久間 茶湯の開祖・村田珠光が志した茶道を小笠原家茶道古流が受け継ぎ、今日に至ったことは歴史上否めない事実です。その誇りと伝統を持続させ、茶祖の遺した茶道文化の遺産を次世代へと伝承するとともに、新しい時代への茶湯へ発展させる活動が始まっています。
――今の茶道をどう思われますか?
佐久間 たとえば現在の茶道は、あまりにも作法に比重が置かれ、そのために修行一辺倒になってしまっています。これでは、何のためにお稽古を行うのか、また礼が存在する理由がわからなくなっています。
「道」の重要性は、人生を豊かにし、和の精神をもたらすことにあります。それを失念してはなりません。そのために必要なのは礼の実践です。あくまでかたちにこだわりすぎることなく、まずは気軽に接していただき、作法が存在する理由を、身体をもって学びとっていただきたいと思います。
ことに茶道は総合芸術であり、日本の礼の神髄です。私が携わる小笠原家茶道古流をはじめ、諸流派が真の意味で礼を実践してくれることを願うばかりです。
その点を「茶の湯とは 心につたえ眼につたえ 耳につたえ 一筆もなし」という歌がいみじくも表現しています。
――茶道は「総合芸術」とのことですが、高齢者だからこそ伝えられる世界があるのでは……
佐久間 その通りです。長い人生で様々なものを見、聞き、体験してきた高齢者ほど、より豊かに茶の世界を表現できると考えています。たとえば私は茶道の世界をより広げるために、様々な道を学んできました。武道であれば柔道・合気道を。芸道でも小笠原流礼法糾方的伝(きゅうほうてきでん)総師範の位をはじめ、草月流華道師範・(ひさご)流小唄名取などの資格を手にしてきました。このように自分でいろいろな世界を積み重ねるほどに、多くのことが表現できるところに茶道の最大の魅力があります。
――高齢者にこそ、日本の伝統文化が担えるというわけですね。
佐久間 グローバル化が進む中で、〝日本人らしさ〟が求められています。日本人のあり方を知るための手段は、私たちの祖先から培われてきた伝統的な「道」の中にあるのではないかと思います。これらを探求することは国際化を迎えた日本において、必要なのではないでしょうか。
また、茶道・煎茶道・華道・気功道・芸道、そして礼道など、様々な「道」をグランドカルチャーとして学ぶという動きがあります。
中でも茶道は、激しい動きもなく、手軽に始められる「道」の一つです。茶道は総合芸術であり、日本の礼の真髄ですが、同時に人生を映す鏡そのものであり、だからこそ高齢者だけが伝えられる世界があります。先にふれましたが、現在の茶道は修行の場になっている、そんな傾向があります。しかしながら、今後は日本人の精神を伝えるグランドカルチャーの趣味という可能性を皆さんと共に追求したいものです。
――ありがとうございました。